がん
ーその究極の病への挑戦
京都大学ELP短期集中講座オンライン 2021.3.8 - 11
京都大学エグゼクティブ・リーダーシッププログラム(ELP)は、
短期集中講座『がんーその究極の病への挑戦』をオンラインで開講します。
オンラインをベースにした新しいスタイルと価値の経験
Professors
講師陣
湊長博京都大学総長、ノーベル生理学・医学賞受賞者の本庶佑教授ら、さまざまな角度からがんに取り組む講師陣によるオンライン講義。
本質を追求する講義をお届けします。
Group Work
グループワーク
講義後、少人数にわかれてグループワークを行います。異なる立場からの意見や疑問を共有することで、新たな視点を獲得できます。
Discussion
ディスカッション
各グループからの質問を基に、全体で議論をします。講師に直接問いを投げかけることで、さらに深い学びに繋がります。実際のELPでも重んじている対話を重視したプログラムです。
Message
「ELPオンライン」受講生から、新しい受講生へのメッセージ。
学ぶということが、こんなに楽しく、自分自身に活力を与えるということに気づきました。不確実性の時代に何が起きても慌てないような構えを作るきっかけを与えてくれます。
多様な人が、多様な目的で集っています。本質と最先端の講義は惜しみない知への情熱にあふれています。濃密な時間に全員が参加するありえない場があります。
講義は高度な内容でありながら、理解できるように教えてくださいました。受講するごとに、物事の捉え方が多面的になり、視野も広くなり、活動にも取り入れることができました。
ELPは、自分自身と自分自身の立ち位置を見つめ直す、とても良いきっかけとなります。後の人生・生き方に影響を与えてくれます。
想像をはるかに超える学びの場がそこにあった。
年齢、立場、状況に関わらず、きっと得るものがあるはず。学問をできる場であり、学ぶ時間を楽しんで欲しい。
命を授かった一人の人間として生きている間に何ができるのか、未来のために何ができるのかを考える機会を与えて頂く時間でした。
受講生、先生方とのディスカッションは、想像以上に充実した学びの時間でした。ひとつひとつの講義に、自ら考え、学びのスタート地点にたてた気がします。
ELPで学ぶ内容は、これからの未来を切り開く人財にとって、最も大切な学びとなります。自分事として考え、自分事と行動し、世の中のために何ができるのかという自分への問いの基本となるものです。
一流の諸先生方の講義を経て受講生の皆と一緒に学び・考えることは、日常に忙殺されて疲れ切った自分の心を生きかえさせることが出来ました。
がん治療の革命が起きています
ノーベル生理学・医学賞を受賞した本庶佑・京都大学特別教授の研究が道を拓いた免疫療法は、進行したがんであっても劇的に治療効果を発揮することが明らかになっています。さらに、がん蛍光プローブや中性子捕獲療法など、がん細胞に狙いを定めて診断・治療を行う画期的な手法の開発も進んでいます。がんを制圧するという人類の夢に向けて日々進歩を続ける科学の最前線をお伝えします。
その一方、がんの治療法が進むということは、多くの人ががんと共に長い人生を送ることも意味します。人生百年と言われる時代を迎え、がんと共に生きるとはどういうことなのか、がん患者の生を見つめてきた識者と共に考えます。お申込みはこちらから
先着約30名。お申込みはお早めに。
Program
第1日:2021年3月8日(月)「がんの最前線」
『この集中講義に対する学びへの構え−導入ワークショップ−』
9:30〜10:30
宮野公樹(京都大学学際融合教育研究推進センター准教授)
【講義概要】
「学ぶ」とは、単なる先端知識や専門知識の脳内導入ではない。そのような「知る」ことも大事ではあるが、職種も世代も様々な履修生らが集まり「学びあう」ことの意味と意義をあらかじめ問うておくのがこの講義の役目である。勿体ぶるまでもなく「学ぶ」とは自分が変わることであり、そのためにこそ、講師や履修生同士での「対話」に意味が出てくるのだ。なぜなら、自分と異なることとの接触によってこそ、自分自身を振り返ることができるのだから。
【プロフィール】
京都大学学際融合教育研究推進センター准教授。学問論、大学論、(かつては金属組織学、ナノテクノロジー)。96年立命館大卒業後、カナダMcMaster大学、立命館大,九州大学を経て2011年より現職。総長学事補佐、文部科学省学術調査官の業務経験も。現在、国際高等研究所客員研究員も兼任する他、日本触覚学会特別顧問、日本イノベーション学会理事。1997年南部陽一郎研究奨励賞、2008年日本金属学会若手論文賞、他多数。2019年所属組織の事業が内閣府主催第一回日本イノベーション大賞にて「選考委員会選定優良事例」に選出。近著「学問からの手紙—時代に流されない思考—」(小学館)は2019年京大生協にて一般書売上第一位。最新論考「産学連携の形而上学」(2020年現代思想10月号)は、朝日新聞論壇委員が選ぶ今月の1冊に選出される。
『がんとは?-たった1個のがん細胞がヒトの身体をむしばむ-』
「がん」と「がん細胞」について系統的にお話します
10:40〜13:20
千葉勉(関西電力病院院長)
【講義概要】
がんは一個の正常細胞が「がん化」することから始まり、それがどんどん増殖してヒトの身体をむしばんでいきます。1個の「がん細胞」が誕生してから、検査などで「がん」と診断できるようになるまでには、数年あるいは10年以上かかると言われています。最初に1個の「正常細胞」が「がん細胞」に変化するためには、たくさんの遺伝子に変異が入る必要がありますが、その原因としては、ウィルスや細菌感染、化学物質、紫外線などの外的因子があります。またもう一つ大事な要因として「遺伝素因」があげられます。本講義では、こうした「がんの生物学」の基礎と、それに基づいた、がんの臨床、診断、治療について、全般的にお話します。
【この研究が世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか】
癌の半分ぐらいは微生物による感染症が原因と言われています。私たちの研究グループは、細菌やウィルス感染がどのようにして「正常細胞」に遺伝子変異を導入して「がん化」させていくのか、について研究をすすめてきました。その結果、ノーベル賞を取られた本庶 佑教授が発見されたAIDという物質が、細胞にどんどん遺伝子変異を導入していくことを見出しました。このことは、私たちの身体の中には、遺伝子変異を起こす物質が存在していることを意味しています。このように「がんの生物学」を学ぶことは、がんの予防、新しい治療法の開発に大きく貢献すると考えられます。
【プロフィール】
1974年神戸大学医学部卒業。その後、宇和島市民病院、三木市民病院など、いわゆる「地方病院」で臨床医として修業をつむ。一方で、神戸大学大学院、米国ミシガン大学にて消化器病の研究に従事。帰国後、神戸大学助手をへて神戸大学医学部教授、さらに京都大学医学部消化器内科教授となり2015年退官、その間、副病院長、副研究科長、京都大学がんセンター長を歴任。退官後、京都大学総合生存学館(思修館)教授。2017年から関西電力病院院長として現在に至る。一貫して、「臨床医」としてがんの診療と研究に携わる。現在、日本医療開発機構(AMED)プログラムスーパーバイザー、厚労省難病対策委員会委員長などを兼務。
『小児がんの克服に向けて』
敵を知って、敵を倒す
14:20〜17:00
滝田順子(京都大学大学院医学研究科発達小児科学教授)
【講義概要】
小児がんは成人がんと比べると稀ではあるものの本邦における小児の主要な死亡原因となっている。従って、小児がんの克服は、少子高齢化が進行する本邦において、早急に取り組むべき重要課題と言える。小児がんの中でも、とりわけ再発・非寛解の難治例は依然として予後不良であり、有効な治療法は確立されていない。すなわち、小児がんの克服には、難治性腫瘍に特化した新規治療法の開発が急務と考えられる。これらの難治性腫瘍を制圧するためには、分子病態に立脚した本質的で有効性が高い、かつ副作用をできるだけ回避した新規治療法の開発が必要である。本講義では、小児がんの克服を目指した分子病態の解明につき、概説する。
【この研究が世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか】
小児がんは成人がんと比べて、化学療法や放射線治療の感受性が高く、多くの場合、治療の主体は化学療法と放射線治療を組み合わせた細胞毒性の強い集学的治療が行われている。しかし、成長の過程にある年少期に強力な治療を受けることによる成長発達障害、不妊、二次がんなどの深刻な晩期障害が大きな社会問題となっている。本研究の成果により、できるだけ晩期障害を回避した新規治療戦略の改革が実現すれば、これまで解決が困難であった晩期障害の克服といった小児がん独自の臨床的かつ学術的課題解決に貢献するものと期待される。がんサバイバーのQOL向上をももたらし、健全な若年者の育成、ひいては生産人口の増生につながるものと期待される。
【プロフィール】
2018年より現職、京都大学大学院医学研究科発達小児科学教授。日本医科大学を卒業した後、東京大学医学部小児科に入局。小児科一般診療の研鑽を積んだ後、国立がん研究センター生物学部で小児がんの研究に着手。東京大学医学部附属病院小児科助手、無菌治療部講師、同大学大学院医学系研究科小児科学准教授を経て現職へ。これまでに1st Asian Society for Pediatric Research Young Investigator’s Award 、6th Asian Society for Pediatric Research Young Investigator’s Award 、2009年東京大学医師会賞、2010年東京都医師会研究賞、第1回日本小児科学会研究学術賞、第14回小児医学川野賞、2015年日本癌学会 JCA-Mauvernay Award、2019年日本白血病基金清水賞、第4回日本癌学会女性科学者賞など受賞。現在、日本小児科学会評議員、理事会諮問委員、日本小児血液・がん学会副理事長、日本癌学会評議員、日本血液学会評議員、日本小児がん研究グループ(JCCG)理事、厚生労働省難病対策委員を歴任。
第2日:2021年3月9日(火)「がんの新パラダイム〈1〉」
『がん免疫前史』
9:30〜9:55
湊長博(京都大学総長)
【講義概要】
自己体内に発生するがんに対して、外来病原体と同様免疫反応が起こりうる可能性がバーネット卿(1960年ノーベル医学賞)により初めて提唱されたのは1960年代である。その後実験動物を用いた膨大な研究から、「がん免疫」の存在は実証されてきたが、それによるヒトがん治療の試みはことごとく失敗に終わってきた。これが初めて日の目を見たのが、本庶らによる新しい観点からのがん免疫療法の開発である(2018年ノーベル医学賞)。半世紀以上にわたる長いがん免疫研究の歴史を概観する。
【プロフィール】
1951年生まれ。医学博士。専門は免疫学。75年京都大学医学部卒業。京都大学研修医、米国アインシュタイン医科大学研究員、自治医科大学内科助教授を経て、92年京都大学医学研究科教授。2010年京都大学医学研究科長・医学部長、2014年京都大学理事・副学長、2017年10月よりプロボストを務めた後、2020年10月より京都大学総長に就任。免疫細胞生物学の多彩な基礎研究を展開、本庶佑教授の共同研究者としてがん免疫療法の開発にも貢献。2014年JCA-CHAAO Award、2016年創薬科学賞、2018年岡本国際賞など受賞。
『がん免疫治療の未来』
がんの治療とその社会的意味
10:00〜12:40
本庶佑(京都大学大学院医学研究科特任教授、
京都大学高等研究院副院長・特別教授、京都大学大学院医学研究科附属 がん免疫総合研究センター長)【講義概要】
PD-1抗体はメラノーマの治療薬として2014年6月にPMDAによって承認された。その後、10種類のがん治療薬として使われている。さらに現在、世界中では200件近くのPD-1抗体による各種がん腫治療への治験が進行中であり、次々と対象が拡大しつつある。この医学の大転換期に何を考えるべきかを議論する。まず、今後は日本の企業が次のアカデミア由来のシーズ誕生にどのように貢献するか注目される。また、もしヒトががんでも感染症でも死ななくなるとして真の幸福を得られるのか。今私たちは、どう生きるかが問われる。
【この研究が世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか】
1992年 PD-1と遭遇し、これが免疫のブレーキ役を担うことを見出し、2002年には動物モデルでPD-1阻害によってがん治療が可能であることを発見した。22年の歳月を経て今日、がん治療のペニシリンとも称される新しい画期的な治療法として結実した。ペニシリンに続いて発見された多くの抗生物質により人類が感染症の脅威から解放されたように、今後はがん免疫療法が改良され、がんによる死を恐れなくてなくてもすむようになるだろう。
【プロフィール】
1942年生まれ。医学博士。京大医学研究科博士課程終了後、米国のカーネギー研究所、NIHで客員研究員。1974年帰国、東大医学部助手、大阪大医学部教授等を経て、1984年京大医学部教授。以降、京大遺伝子実験施設長、京大医学研究科長、医学部長に就任。2005年退官後に京大医学研究科特任教授。2017年5月より京大高等研究院特別教授。2018年4月より同副院長。2020年4月より京大医学研究科附属がん免疫総合研究センター長。
2015年7月より公益財団神戸医療産業都市推進機構理事長。
その他、高等教育局科学官、日本学術振興会学術システム研究センター所長、内閣府総合科学技術会議議員、静岡県公立大学法人理事長を歴任。
日本学士院会員。1996年恩賜賞・学士院賞、2000年度文化功労者、2012年ロベルト・コッホ賞、2013年文化勲章、2014年唐奨(Tang prize)、2016年京都賞、2018日本医師会最高優功賞、 2018年ノーベル生理学・医学賞、2019年アメリカ癌研究会(AACR)フェロー、2019年イギリス生理学会 名誉会員、2019年スペイン王立医学アカデミー名誉会員のほか、2019年京都府特別栄誉賞、京都市名誉市民など、受賞・受章多数。『がん細胞が好んで取り込む物質』
異常な糖の摂取を指標にがんを可視化する
13:40〜16:20
山田勝也(弘前大学大学院医学研究科統合機能生理学講座准教授)
【講義概要】
私達の身体は、1 mmの1/100程の大きさの細胞の集合体であり、傷跡に新しい皮膚ができるように、失われた分だけ新たな細胞が生まれ、あるいはまた細胞同士が適切に相互作用を行うことで外界に適合し、生存を維持している。がんも私達の身体の一部で、細胞の集合体だが、その増殖は私達の生存を脅かす。がん細胞は増殖に栄養やエネルギーが必要で、特にブドウ糖(デンプンの単位。専門用語でD-グルコース)を好んで細胞内に取り込むため、この性質を利用してがんを検出するPET検査が実用化している。正常細胞もD-グルコースを必要とするため奪い合いになるが、がんはこの争奪戦に勝つ強力な装置を持つようだ。この装置は D-グルコースのみならず、異常なブドウ糖L-グルコースをも細胞内に取り込む可能性がある。これを逆手にとり、たちの悪いがんを可視化する方法を紹介する。
【この研究が世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか】
がんが正常細胞と比べてD-グルコースを多量に細胞内に取り込める理由は、グルコーストランスポーター(GLUT)が過剰に発現する為とされてきた。しかし、近年の乳がんや肺がん等のがん患者に関する研究は、GLUTの発現がさほど増えていない事を示す。がんは多様な糖摂取機構を利用する可能性がある為、蛋白発現を論ずる代わりに、異常な糖であるL-グルコースを蛍光で光らせ、これを取り込む細胞を探索した。その結果、細胞形態や免疫染色に基づく現在の細胞診と比べ、患者予後の正確な予測につながる可能性が出てきた。
【プロフィール】
現在、弘前大学大学院医学研究科准教授。哺乳動物細胞で蛍光D-グルコース2-NBDGのグルコーストレーサーとしての有用性を示した研究 Yamada K. 他 J. Biol. Chem. 275: 22278-22283 (2000)で博士号を取得(医学)。2-NBDG を使う研究者の増加に伴いNature Publishing Groupから依頼を受け、その使用法Yamada K. 他 Nature Protocols 2: 753-762 (2007)を出版。2-NBDG は、脳における新しいグルコース輸送路の発見Rouach 他 Science 2008をもたらす等、細胞の糖輸送研究に広く利用されている(Zhong他 Cell 2010; Viale他 Nature 2014; Ait-Ali他 Cell 2015; Li他 Nat. Commun. 2019等)。また、2-NBDGの輸送の立体選択性を評価する為に開発した「蛍光 L-グルコース2-NBDLG」が、悪性の特徴を示す腫瘍細胞に選択的に取り込まれ、がんを可視化する事を2008年に発見し、国際特許US10551387, US10288604, US10509041, US10001487, US8986656, EP3199638, EP2905620, EP2703495, EP2325327等を取得。臨床適用を行い、国内外の研究者、企業と装置化を進めている(Ono K. 他 Cancers 12: 850, 2020)。H20-22年度 JST育成研究、H23-28年度JST/AMED 産学共創基礎基盤研究プログラム、 H25-27年度 JST特許群指定、H24-26年度 およびH28-30年度 弘前大学機関研究等の代表者。日本生理学会評議員。がんと同じく多量のグルコースを消費する脳の酸素検知機構の発見Yamada K. 他 Science 292: 1543-1546 (2001)など、生物のエネルギー需給に関わるユニークな研究でも注目される。
第3日:2021年3月10日(水)「がんの新パラダイム〈2〉」
『化学蛍光プローブを基盤とする新がん医療技術創製』
がんの個別化・精密治療を新化学技術で実現する
10:00〜12:40
浦野泰照(東京大学大学院薬学系研究科・医学系研究科教授)
【講義概要】
演者らはこれまでに、化学ベースの蛍光プローブの論理的精密設計を可能とする全く新たな分子設計法を確立し、様々な機能を有する新規蛍光プローブの開発を達成してきた。もちろんこれらを活用した、全く新たな生細胞イメージングが可能となったことは言うまでも無いが、さらに近年では、本プローブ技術の臨床医学応用を目指し、外科・内視鏡手術時に精確にがん部位を特定し、がんの取り残しによる再発を激減させることを目指した研究も展開している。本講演では、最新化学に基づくプローブ開発事例(ケミカルバイオロジー)から、その医療応用としての新たながん診断と治療(ケミカルメディシン)に関する最新の成果を紹介する。
【この研究が世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか】
がんは過去40年ほど日本人の死因の第一位であり続けている。その理由としてまず、早期発見が難しいことが挙げられる。がんは、外科・内視鏡手術で全て取りきることができれば完治する病気であるが、現在の技術では可視化できない微小がんの見逃しが予後を不良にしている。さらに別の理由として、患者毎のがん細胞の性質がバラバラで、一種類の治療薬で対応できる患者の数は多くないことが挙げられる。遺伝子診断の結果、適合する分子標的薬が存在する確率は2割程度であり、この性質のヘテロ性に対応可能な新たながん医療技術の創製が求められている。化学プローブ開発とその活用によるライブイメージングを基盤とする新技術は、この両問題点の克服に画期的な役割を果たすものであり、究極のがん個別化医療に繋がる技術である。
【プロフィール】
1990 東京大学 薬学部卒業
1995 同 博士課程修了、博士(薬学)取得
1995-1997 日本学術振興会特別研究員(PD)
1997-2005 東京大学大学院薬学系研究科 助手
2004-2008 科学技術振興機構さきがけ「構造機能と計測分析」領域研究員(兼任)
2005-2009 東京大学大学院薬学系研究科 准教授
2010-現在 東京大学大学院医学系研究科 生体情報学分野 教授(2014- 兼務)
2014-現在 東京大学大学院薬学系研究科 薬品代謝化学教室 教授『ホウ素中性子捕捉療法の原理と特長』
がん細胞選択・重粒子線照射による新たながん治療
13:40〜16:20
鈴木実(京都大学複合原子力科学研究所・粒子線腫瘍学研究センター長 教授)
【講義概要】
ホウ素中性子捕捉療法(Boron neutron capture therapy, 以下BNCT)は、がん細胞に選択的に集積するホウ素薬剤と研究用原子炉、あるいは近年開発に成功した加速器から取り出される中性子とが反応して生じる2つの重粒子線により、がんを細胞選択的に破壊する新しい放射線治療法です。放射線治療では、周囲の正常組織に放射線をできる限り照射せずに、がんに集中して放射線を照射する技術が現在大変進歩しています。本講義では、がんの塊ではなく、がん細胞選択的に重粒子線を照射することが可能であるBNCTのユニークな特長が、がん治療の現場に新たな治療法を提供できる可能性を、近年のBNCTの取り巻く現状と合わせて紹介いたします。
【この研究が世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか】
有効な治療法がなくなり医療機関を渡り歩く「がん難民」という言葉が、がん治療の難しい厳しい側面を示すものとして取り上げられたことがあります。医療現場の医師、あるいは、研究者がその問題を解決するには、新規がん治療を患者さんに届けること以外にありません。大学の研究用原子炉を使用して臨床研究が進められ、企業がその研究に参画し、加速器BNCTという治療法を社会実装したことは、アカデミアが果たすべき一つの役割を示したと思います。現在、頭頸部癌のみがBNCTによる治療が認可された疾患ですが、難治性癌に苦しむ多くのがん患者さんに福音をもたらす治療法になるよう、国内外でBNCTの基礎研究が進められています。
【プロフィール】
1990/06/01〜1999/03/31 京都市立病院放射線科医員
1999/04/01〜1999/04/30 京都大学医学部附属病院放射線科・医員
1999/05/01〜2002/03/31 近畿大学医学部放射線医学教室・病院講師
2002/04/01〜2004/04/30 京都大学原子炉実験所附属医療基礎研究施設 助手
(2003.4 ~2004.5 ミネソタ大学にVisiting scholarとして留学)
2004/05/01〜2007/03/31 京都大学原子炉実験所附属粒子線腫瘍学研究センター助手
2007/04/01〜2008/03/31 京都大学原子炉実験所附属粒子線腫瘍学研究センター助教
2008/04/01〜2013/04/30 京都大学原子炉実験所附属粒子線腫瘍学研究センター・中性子医療高度化研究部門 特定准教授
2013/05/01〜 京都大学複合原子力科学研究所・粒子線腫瘍学研究センター 教授
第4日:2021年3月11日(木)「がんと生きる」
『緩和ケアー尊厳ある生と死への支援』
がん医療における緩和ケアの目的と全人的苦痛ヘのアプローチ
10:00〜12:40
田村恵子(京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻教授)
【講義概要】
概要:緩和ケアのコアであるがん患者と家族が抱える全人的苦痛に対するケアの視点やアプローチについて説明する。さらに、がん医療における緩和ケアの対象や時期ごとのケアの提供体制とその課題について紹介する。
目的:がん患者と家族の全人的苦痛について理解し、それらの苦痛を和らげるためのケアや希望を支えるケアの在り方について学習する。また、治療と緩和ケアの両者を駆使したQOLの維持・向上を目指したアプローチについて探求する。
【この研究が世の中をどのように変えるのか、どんなインパクトがあるのか】
緩和ケアは、以前は「ターミナルケア」と言われ、終末期に行われるケアが主体であったが、がん対策基本法の制定に伴って、現在では、がんと診断された時からの緩和ケアの重要性が叫ばれ、その焦点が死にゆく患者のケアから苦痛の緩和に移行している。その結果、治療に伴う苦痛を最小限に緩和しつつ、必要ながん治療が終末期まで継続できる状況が生まれている。また、緩和ケアはがん以外の疾患の患者にも不可欠であることが広く認識されるようになり、2018年には末期心不全患者の緩和ケアが診療報酬上認められるようになった。
【プロフィール】
1996年聖路加看護大学大学院看護学研究科修了。1997年にがん看護専門看護師認定を取得。わが国における末期がんに対するホスピスケア(緩和ケア)の草分けである大阪市・淀川キリスト教病院で1987年より27年間務め、約6000名を超える看取りに向き合う。2006年大阪大学大学院医学系研究科修了(医学博士)。2014年1月より現職。さらに、2015年7月より、地域で生活するがん患者や家族ががんをきっかけとして語り合い、生きる知恵や支え合う力を育む市民活動「ともきいき京都」を開始し、ケア的コミュニティづくりを目指している。
ホスピスでがん患者を最期まで看取り、家族の看護にも取り組む姿がNHK「プロフェッショナル仕事の流儀」で2008年に放映された。代表的な著書に『余命18日をどう生きるか』(朝日新聞出版)、『看護に活かすスピリチュアルケアの手引き 第2版』(青海社)などがある。パネル・ディスカッション
13:40-15:40
『リスクと選択―「急に具合が悪くなる」における20通の往復書簡を通じて』
パネリスト:磯野真穂(慶應大学大学院 健康マネジメント研究科 研究員)
【プロフィール】
人類学者。専門は文化人類学・医療人類学。博士(文学)国際医療福祉大学大学院准教授を経て2020年より独立。著書に『なぜふつうに食べられないのか――拒食と過食の文化人類学』(春秋社)、『医療者が語る答えなき世界――「いのちの守り人」の人類学』(ちくま新書)、『ダイエット幻想――やせること、愛されること』(ちくまプリマ―新書)、宮野真生子との共著に『急に具合が悪くなる』(晶文社)がある。(オフィシャルサイト:www.mahoisono.com / Blog: http://blog.mahoisono.com)
パネリスト:田村恵子(京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻教授)
【プロフィール】
1996年聖路加看護大学大学院看護学研究科修了。1997年にがん看護専門看護師認定を取得。わが国における末期がんに対するホスピスケア(緩和ケア)の草分けである大阪市・淀川キリスト教病院で1987年より27年間務め、約6000名を超える看取りに向き合う。2006年大阪大学大学院医学系研究科修了(医学博士)。2014年1月より現職。さらに、2015年7月より、地域で生活するがん患者や家族ががんをきっかけとして語り合い、生きる知恵や支え合う力を育む市民活動「ともきいき京都」を開始し、ケア的コミュニティづくりを目指している。
ホスピスでがん患者を最期まで看取り、家族の看護にも取り組む姿がNHK「プロフェッショナル仕事の流儀」で2008年に放映された。代表的な著書に『余命18日をどう生きるか』(朝日新聞出版)、『看護に活かすスピリチュアルケアの手引き 第2版』(青海社)などがある。『「がんと生きる」~当事者・遺族・支援者として~』
パネリスト:野田真由美(NPO法人支えあう会「α」副理事長)
【プロフィール】
1998年乳がんに罹患、手術とホルモン治療を受ける。直後に父親に膵がんが見つかりキーパーソンとして1年弱の闘病を支えたのち、2001年から患者会での活動を開始。2007年より千葉県がんセンターに嘱託職員として11年間勤務。がん相談支援センターの相談員として多くの患者・家族の相談支援やピアサポーター事業に携わった。3年前、母親が大腸がんに罹患、自宅での介護と看取りを経験。現在、千葉県のがん関連委員会委員、国立がん研究センター東病院認定臨床研究審査委員・医療安全外部監査委員、日本癌治療学会・日本緩和医療学会のPALプログラム運営委員、厚労省委託事業がんピアサポーター養成プログラムワーキンググループ委員等を務めている。
『小児がん経験者の治療後の課題』
パネリスト:前田美穗(日本医科大学名誉教授)
【プロフィール】
日本医科大学卒業。現在は日本医科大学名誉教授。小児科入局後、日本医科大学大学院に入学、生化学教室で鉄蛋白について研究を行い、学位を取得。その後一般小児科学とともに小児血液・腫瘍学の臨床、研究に従事。医師になったころはまだ小児がんの治癒率は低く,生存率の向上を第一目標に治療、研究が行われていた。その後治癒率は徐々に向上し現在では80%に達するようになり、治療終了後の小児がん経験者が自立した健全な成人になることの大切さが重要視されるようになった。しかし現在でも小児がんに対しての社会的な認識は十分でなく、小児がん経験者は就学や就職においても特別視されたりすることもあるが、そういったことがないように、また、小児がん経験者においては治療や病気そのものの影響が成人になっても出現する可能性があるため、長期間フォローアップすることが大切であることを世間に知ってもらいたいと願っており、そのための活動を行っている。
モデレーター:永元哲治(CHARTAE Consulting LLC. 代表・小児科医師)
【プロフィール】
京都大学医学部医学科卒、現役小児科医師。帰国子女としての境遇の中で、特に日本の教育システムへの疑義から比較論的な法制度論・文化論への関心が嵩じ、医学部入学にも関わらず都銀系シンクタンクで通商交渉・国際標準化に係る調査研究に従事。その後、医療に寄せつつ産業側の視座を得るべく、大手経営コンサルにて製薬・バイオ企業のグローバル戦略立案・組織設計等の支援に従事。この間、患者参加に係る比較制度研究や治験ネットワーク設計支援などにもプロボノ参画。その後、長年念願の小児科医として、こども病院や市中病院小児科で臨床に専念。のちIT系コンサルを経て現職を創業、営利・未営利・非営利問わずバイオ・薬事・医療健康・デジタルヘルス系の新規事業構築支援に注力。
Time Table
講義の流れ
Day 1 / 2020年3月8日(月)
9:10~ 9:30 (20m) 開講式
9:30〜10:30 (60m) 『この集中講義に対する学びへの構え−導入ワークショップ−』 宮野公樹(京都大学准教授)
10:40〜1 1:40 (60m)『がんとは? -たった1個のがん細胞がヒトの身体をむしばむ-』千葉勉(京都大学名誉教授、関西電力病院院長)
1 1:40〜12:10 (30m) グループディスカッション
12:10〜12:20 (10m) 休憩
12:20〜13:20 (60m) 全体ディスカッション
13:20〜14:20 (60m) 休憩
14:20〜15:20 (60m) 『小児がんの克服に向けて』滝田順子(京都大学教授)
15:20〜15:50 (30m) グループディスカッション
15:50〜16:00 (10m) 休憩
16:00〜17:00 (60m) 全体ディスカッション
Day 2 / 2020年3月9日(火)
9:30〜 9:55 (25m)『がん免疫前史』湊長博(京都大学総長)
10:00〜1 1:00 (60m)『がん免疫治療の未来』本庶佑(京都大学特別教授)
1 1:00〜1 1:30 (30m) グループディスカッション
1 1:30〜1 1:40 (10m) 休憩
1 1:40〜12:40 (60m)全体ディスカッション
12:40〜13:40 (60m) 休憩
13:40〜14:40 (60m)『がん細胞が好んで取り込む物質』山田勝也(弘前大学准教授)
14:40〜15:10 (30m) グループディスカッション
15:10〜15:20 (10m) 休憩
15:20〜16:20 (60m)全体ディスカッション
Day 3 / 2020年3月 10日(水)
10:00〜1 1:00 (60m)『化学蛍光プローブを基盤とする新がん医療技術創製』浦野泰照(東京大学教授)
1 1:00〜1 1:30 (30m) グループディスカッション
1 1:30〜1 1:40 (10m) 休憩
1 1:40〜12:40 (60m)全体ディスカッション
12:40〜13:40 (60m) 休憩
13:40〜14:40 (60m)『ホウ素中性子捕捉療法の原理と特長』鈴木実(京都大学教授)
14:40〜15:10 (30m) グループディスカッション
15:10〜15:20 (10m) 休憩
15:20〜16:20 (60m)全体ディスカッション
Day 4 / 2020年3月 11日(木)
10:00〜1 1:00 (60m)『緩和ケアー尊厳ある生と死への支援』田村恵子(京都大学教授)
1 1:00〜1 1:30 (30m) グループディスカッション
1 1:30〜1 1:40 (10m) 休憩
1 1:40〜12:40 (60m)全体ディスカッション
12:40〜13:40 (60m) 休憩
13:40〜15:40 (120m)パネル・ディスカッション『がんと生きる』
- 田村恵子(京都大学教授)
- 前田美穗(日本医科大学 名誉教授)
- 野田真由美(NPO法人支えあう会「α」副理事長)
- 磯野真穂(慶應大学研究員)
- モデレーター:永元 哲治(CHARTAE Consulting LLC.代表・小児科医師)
15:40〜16:00 (20m)閉講式
お申込みはこちらから
先着約30名。お申込みはお早めに。
『がんーその究極の病への挑戦』徹底解説。
山口栄一 京都大学ELP運営委員長・産官学連携本部特任教授が、本講座でなにを学べるのかを解説します。
募集概要
日程:2021年3月8日(月)〜11日(木)
事前に、接続確認&オリエンテーションを行います。
定員:先着約30名
申込締切:2021年2月15日(月)
受講料:
380,000円→300,000円(税込・教科書代込)環境:すべてオンラインで行います。受講には、オンラインミーティングツール(zoom)が利用できる環境が必要です。
パソコン、Wi-Fiなどのインターネット環境、カメラ、マイクをご準備ください。概要:ビデオ・音声参加。グループワーク・ディスカッション・チャットあり。
キャンセル規定:ご都合により申込み後にキャンセルされる場合は以下キャンセル料を申し受けます。
開講日の7日前から前々日 :受講料の30% /開講日の前日から当日:受講料の100%
最低履行人数に満たない場合、開催を中止する場合がございます。その場合、上記に関わらず全額返金いたします。お問い合わせ
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